都市の住まい方-都心高層のアジア圏vs郊外戸建の欧米圏

こんにちはManachanです。いつもご愛読ありがとうございます。今回は、不動産を支える基盤である「都市における人々の住まい方」について、世界視野で文明比較してみようと思います。

冒頭の画像は、2013年にロンドン大学の地理学者James Cheshireさんが作成した、「世界の人口密度が一目でわかる地図」です。緯度にそって人口密度を山谷で表し、特に突出している都市だけは黄色い線で示しています。これをみると、地球上における人々の住まい方が一目瞭然ですね。

・アジアは、まるで切り立った山脈のよう(=人口密度が非常に高い)

・西欧と北米は、アジアと比べれば随分となだらか。

・オーストラリア、シベリア、サハラ砂漠等はまるで地球上から消滅したかのよう(=人口密度が非常に低い)

 

この、アジアと欧米の、人口密度の絶対的な違いが、人々の住まい方、建物の構造や耐用年数、都市の構造にまで、大きく影響しているように思います。一言でいうと、

・アジア圏の都市では、人々が中心部に集まり、高層集合住宅に寄り添って住まいたがる。膨大な居住人口を背景に都心部に業務・商業・文化娯楽機能が充実し、人々は主に利便性視点で住まいを決める。人口も交通インフラも都心を中心とした同心円ドーナツ状になりやすい。

・一方、欧米圏の都市では、人々が郊外の緑豊かな土地付き戸建住宅に住まいたがる。都心部は「働く場所」であり、人口密度が高いとは限らない。人々は治安・教育環境視点で住まいを決める。商業・文化娯楽機能も郊外住宅地にあることが多い。

 

アジア圏の大都市を思い浮かべると、東京、ソウル、北京、上海、香港、バンコク、シンガポール、ジャカルタ、ムンバイ…どこも、都心部に高層マンションが建ち並んでいます。地価が一番高いところは都心部、富裕層もたいてい都心のセキュリティ完備の集合住宅に住んでいます。

一方、欧米圏でそれに近い状態の都市は、意外に少ない。せいぜいニューヨーク、ロンドン、パリくらいでしょうか。ニューヨークにしたって、富裕層がこぞってマンハッタン内の高級コンドミニアムに住むわけではなく、本当のお金持ちは郊外の緑豊かな一戸建てに暮らしているものです。

オセアニア方面に行くと、「郊外住宅地は素晴らしい」のに「都心部はショボい」街が結構あります。ニュージーランドのオークランドがその典型例で、北郊や東郊の、海に近い住宅地は目を見張るような美しさなのに、都心部はファストフード店しかなくて治安も悪く、良質な集合住宅がほとんどありません。欧米圏の通例として、人々が住まいとして都心より郊外を好むからですね。

オーストラリアのブリスベンもそれに似た状況。シドニーやメルボルンのような大都市になってはじめて、都心部にまともな高層住宅が建って、アジア系住民を中心に人口が増え、商業施設が増えて都心の利便性が増してくるのでしょう。

 

洋の東西で住まい方が違うことは、都市の治安状況にも大きく影響しています。

世界で一番治安が良い都市といえば、日本を含め、東アジアに集中している印象です。以前ブログにも書きましたが(世界の治安と不動産考)、夜中でもお店たくさん開いてて、人通りも多く、女性の一人歩きOK、暴力犯罪や空き巣、車上荒らしが少ない…みたいな都市は、人口稠密なアジアに多い。実際、Numbeo.comで治安指数の高い大都市は、東京、台北、シンガポールなど、アジア圏に集中しています。

一方、欧米圏では、中小都市はともかく、大都市の中心部で、東京やシンガポールのような良好な治安状況はまず期待できません。富裕層や中間層の多くが郊外に住まう状況のなか、都市中心部ではお店が多くて賑やかとは限りませんし、属性に問題の多い方々が都心部に集まっていたりします。逆にいうと、自家用車前提で閑静な郊外住宅地を拠点にする暮らしなら、安全に暮らせたりするものです。

 

あと、住まい方の違いは、建物のつくり方や耐用年数、住宅産業や都市の構造にも影響してきます。

一般論として、アジアの大都市では高層の集合住宅を大量に供給する傾向があります。例えばベトナムやマレーシアでは、1プロジェクトで1万戸供給みたいな超巨大住宅開発プロジェクトが進行中、欧米圏からみれば信じ難い規模ですね。アジアでは膨大な都市人口があり、かつ多くの人が高層住宅に住みたがるので、その需要に応えるべく巨大開発プロジェクトが成り立つのです。

またアジア圏では、せっかく建てた高層マンションに、人々がたかだか数十年しか住まず、建て替え(使い捨て)するケースが多いです。多湿な気候で建物の劣化が早いという事情もありますが、集合住宅内での設備の進化スピードが非常に速く、もろもろ考えると古い躯体を大事に使うより建て替えてしまった方が合理的という事情もあるのでしょう。

 

一方、欧米圏では、戸建でもアパートでも、一旦建てたら何百年もメンテしながら大事に使うのが一般的です。建物が劣化しにくい欧州の冷涼乾燥な気候で住宅文化が育まれた上に、戸建中心の暮らしゆえ室内設備の更新スピードも速くないので、古い建物をレノベーションすれば、そう違和感なく暮らせます。

 

中古住宅を数百年使い倒す欧米の国々では、当然ながら新築建設の需要が少なく、大量に住宅供給するデベロッパーが余りいません。住宅市場も、新築よりも中古の二次流通の方が断然大きい…そのような環境では、築年数が経っても住宅の価値が余り下がりません。

不動産投資家の観点でいうと、長期保有するなら、建物の価値が下がるアジア圏よりも、下がらない欧米圏の方がやりやすい、という判断になります。

Facebook にシェア

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*