2019年 2月 の投稿一覧

情報テクノロジーと不動産の本質

こんにちは、国際不動産エージェント鈴木です。いつもご愛読ありがとうございます。

私はいま北米5都市をまわる9泊10日の出張中。移動の多いハードな旅もそろそろ折り返し点といったところ。今はカナダのトロントに居ます。

数日前は、ラスベガスで国際不動産業者ネットワーク組織LeadingREのワークショップに參加しました。アメリカをはじめ世界各地の不動産業者と知り合い、業界の最新トレンドを知るために、私はこういう機会があれば世界中どこでも出かけていきます。

いま英米圏の不動産ビジネスの現場はRealestate tech(不動産テック)を抜きに語れなくなりました。Zillow, Redfin, Trulia、Zoopla、ImmobilienScoutなど物件情報ポータル&データバンク、誰もがスマホで買付入れられるOpendoorなどe-buyingシステム、Compassなどバーチャル不動産エージェント、電子署名を普及させたDocusign、仲介手数料の価格破壊旋風を巻き起こしたPurpleBricksに象徴される、情報テクノロジーを使って新たなサービスを展開する企業が台風の目となり企業価値を大いに上げる一方で、既存の不動産仲介業者は平均値をとれば厳しい競争のなか収益が伸び悩んでいます。

LeadingREのワークショップも、そういう時代背景を反映して、講義の約半数が不動産テック関連の内容でした。ここは全米、全世界の不動産業経営者が一堂に会する場、彼らに新しいサービスを使ってもらうため、テック系の企業が大金を出してイベントスポンサーになり、大勢の講師を派遣して来るのです。さすがはビジネスモデルの再先進地アメリカ。この国ではもはや不動産とITの垣根が無くなりつつあると実感しました。

 

不動産以外のビジネスでは、たとえばUberがタクシー業を脅かしたり(アメリカではタクシーが完全に死滅した州もある!)、Airbnbがホテル業界を激変させたり、Netflixがレンタルビデオ業を駆逐したり、Amazonが既存のショッピングセンターやリアル書店を不要にしたりと、情報テクノロジーとスマホの普及が産業構造そのものを一変してしまう事例に事欠かない昨今ですが、

不動産という業界は特殊なのか、これだけ不動産テックが盛んなアメリカでさえ、仲介手数料収入やエージェント数のマーケットシェアでいえば、テック系企業は数パーセントを占めるに過ぎません。今後もたぶん10%を超えることはないだろうという講師の言葉がとても印象的でした。

また、テック系を標榜するOpendoor、Purplebricks、Compassなどでさえ、全社員に占めるITエンジニアの数はせいぜい8~10%にとどまります。つまり、アメリカでも、どこの国でも、ほとんどの客はエージェントという「人間」を通じて不動産取引を行っているのです。

 

なぜ、機械やAIを通じて不動産を買う流れにならないのか?その理由は明快で、

UberやNetflix、Airbnbのような、「高頻度&低額な取引」なら、失敗しても数千円の損失で済むから、スマホ片手に電子でやるのが合理的であるのに対し、

不動産売買はその対局というべき、「低頻度&高額な取引」であり、一般人に取引の経験値がない上に、失敗した時のリスクが何百万~何千万円になる。そんな重大な決断を機械に委ねる人はやっぱり少なくて、結局ほとんどの人は信頼できるエージェントから買うのです。

 

私思うに、これこそ不動産ビジネスの本質であり、今後さらにテックが発達しても、「不動産は人から情報を得て、人を通じて買う」という基本は将来も変わらないでしょう。つまり不動産業においては、「エージェントを情報機器やアプリに習熟させて生産性を上げるのが定石で、販売の仕事を機械に置き替えようとするのは悪手」なのです。

今の時代を生きる不動産業者としては、情報テクノロジーの成果を、業務効率や販売戦略に存分に使いつつも、お客様に信頼されること、不動産を通じて長期間パートナーとして共に歩むことは、社是としていつまでも大事にしていきたいと思います。

時代や洋の東西を問わず、不動産は「人を信じて買う」ものなのだから…

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海の向こうで見つける意外な故郷(ふるさと)

こんにちはManachanです。一年の約3分の1を海外で過ごす私、2019年もまた外遊の季節がやってきました。今のところ2月から6月まで毎月、海外出張の予定が決まっています。

いまアメリカのシアトル国際空港で乗り継ぎ中で、これから当面、旅先からの情報発信が続きます。

最近は欧米出張が多いのですが、私は滞在先で、エキゾチックなものばかり見ているわけではありません。逆に、一瞬「ここは日本?」かと錯覚するような不思議な感覚を味わうこともあります。

これまで見たなかで一番不思議だったのは、「街並みや食べ物、人々のルックスは全く違うのに、自然環境だけが日本に酷似している」アメリカ東海岸のノースカロライナ州です。

同州は東京とほぼ同じ北緯35度に位置します。同じく大陸の東岸にあり、明確な四季があって夏は蒸し暑く、秋は時々台風が来て、冬は天気が良く、気温は朝晩0度、昼は10度くらいで雪は年に数回降るだけという、関東平野部そっくりな気候。桜(ソメイヨシノ)が植えられていれば、開花時期も東京とほぼ同じです。

気候が同じだと植生も似てきます。ノースカロライナの州都ローリー近郊をドライブして、特に森に入る時、私の育った千葉県、特に北総台地を走っているような錯覚を覚えます。

当地のハイウェイを走ってると、ちょうど千葉県内「東関東道の大栄IC周辺」みたいな感じだし、

ハイウェイを外れた田舎道を行くと、「八千代市の島田台から印西市に抜ける県道」あるいは「白井市のカンナ街道」そっくりな、緑の里山景色が広がります。道行く車が右側通行であることで初めて、ここが千葉県じゃなくてアメリカであることに気づかされます。

私は2005年3月22日に、長期出張でノースカロライナの土を初めて踏んだのですが、ローリーの国際空港に下りる時に感じたのが、「土の色と木々の色が成田空港周辺そっくりなこと」でした。

3月下旬といえば、千葉県ではシロツメクサ、オオイヌノフグリ、ムラサキケマンなど春の野草がそろそろ顔を出す頃ですが、ノースカロライナでも同時期に、同じような野草が顔を出すのにも驚きました。

一瞬、「(千葉の野山でとれる)セリとかタラノメとか、食べられる野草ないかな~」と思い、野山に出て探しましたが、さすがにそれは無かったですね。

ノースカロライナで暮らすと、4月、5月と、季節が進むごとに、木々の緑も鮮やかさを増してきます。日に日に濃くなる草いきれの匂いに「千葉の初夏」を感じたものです。6月に入ると、州内に点在する湖で泳げるほど、水温も上がってきます。

9月に入ると、時々大西洋を北上してくるハリケーン(台風)のニュースが飛び込んできます。11月を過ぎると木々も赤や黄色に色づき冬の声が聞こえてきます。時々、寒波が来てマイナス5度以下になりますが、それも冬場、千葉の北総台地を吹き抜ける筑波おろしみたいなもの。大して雪降らないから皆ノーマルタイヤです。

気候温暖なノースカロライナはゴルフ天国で、ローリーから大西洋の海に向かう途中に「ゴルフ場銀座」っぽい場所がありますが、それも千葉県に似てますね。もっとも広いアメリカのこと、土地の使い方は日本より随分余裕ありますけど…

国際不動産ビジネスの最前線で働き、出張も多い私。それでも今なお、ある程度の素朴さを保ったキャラクターで居られるのは、穏やかな千葉県の自然のなかで育ったおかげだと思っていますが、それはノースカロライナで育ったとしても多分同じことでしょう。

ここまで「千葉」を感じさせる自然環境なのに、ノースカロライナには千葉県内に溢れてるような「美味しいもの」が余りなくて、外食してもiHop以外はぶっちゃけ「不味い」ので、私はアジア食材店で米や野菜買って自炊してました。

街を歩いてもアジア人が少なくて珍しがられるし、ショッピングセンターは巨大だし車なしで街歩けないし、マクドナルドのコーラがやたらでかいし、やっぱりここはアメリカでした…

同じ気候だけど、やっぱり日本の方が住みやすいな。でもノースカロライナは地震が無いのが良いかも。あと、不動産投資するには良いところだと思います。

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銀行が金貸さない町家再生を「私募債」で乗り切った話

こんばんは、Manachanです。いつもご愛読ありがとうございます。

金沢市の観光地「ひがし茶屋街」近く、郷土の文豪・徳田秋声の名作「町の踊り場」に出てくる築116年町家を、良きご縁を得て買わせていただきましたが、この建物は1年余の歳月をかけて、旅館業ゲストハウスとして生まれ変わりました。

宿の名は、「旅音(たびね)Azuki」といいます。もとの所有者が、この家で長年、和菓子屋を営んでいたのにちなんで、「あずき」の名をつけました。予約サイトも完成したので、金沢にお立ち寄りの際は是非ご利用ください。

 

azuki

先週は、喜寿(77歳)を迎える千葉県在住の両親を招待して、2泊3日、Azukiで過ごしてもらいました。新婚旅行以来、約50年ぶりの金沢再訪を、「息子が私財を投じた町家旅館オープン」というかたちで実現できてとても喜んでました。また私としても、まだ親が元気で足腰動くうちにご案内できてよかったです。

金沢訪問中の2月11日に、ちょうどタイミング良く、「北陸中日新聞」の1面に、Azukiが写真入りで紹介されました。その事実を知った後、私と両親は金沢じゅうのコンビニを回って、新聞を買い集めました。調達できたのは14部。両親と私とで7部ずつ家に持ち帰り、いま自宅や事務所に飾ったり、友達に配ったりしています。

 

今でこそ歓喜にあふれるAzuki界隈ですが、つい3か月前の昨年11月まで、私は資金繰りに悩んでいました。

1)2017年の終わり、土地・建物を1200万円で購入、仲介手数料や司法書士報酬あわせて1250万円かかりましたが、全額現金で出しました。

2)2018年中に、不動産取得税、固定資産税、火災保険、設計料、ゲストハウスに必要な家具家電備品代の支出が、300万円弱かかりましたが、これも全額現金で出しました。

3)2018年10月から、改修工事に着手しました。総額は税込で約1750万円。契約金(10%)と中間金(20%)まで、525万円は現金で出しましたが、引き渡し時の残金1225万円の捻出に頭を悩ませていたのです。

 

この時までに、金沢市の事業にすでに2000万円以上の現金を支出しています。しかもタイミング悪く、私は2017年11月に会社を友人と共同起業したばかり、最初の9か月間は社員に給料出すために経営陣ふたりは無給で過ごし、その間にも生活費や教育費は日々出ていくので、資金繰りが本当にきつかったです。

この時までに、銀行融資の打診を10行ほどにしましたが、ことごとく断られました。ゼロ回答の主な理由は、4つ。

・私の居住地が東京で、物件所在地が金沢 ⇒ 地域密着の信金・信組は取組不可

・建物が築116年なので担保評価が出ない ⇒ 北陸に本店のある地銀やメガバンクでも取組不可

・地元の運営会社がまだ創業3年、法人化してから1年 ⇒ 実績重視の銀行ではマイナス査定

・融資規模が小さい(1000万円台) ⇒ 東京に本拠を置く、古民家再生・収益化プロジェクトに融資する会社でも、サイズが小さすぎて取り組めない。

 

2018年11月中旬。竣工まであと2か月足らず、つまり1200万円以上の支払が迫る時点で、私には「政策金融公庫」位しか選択肢が残されていませんでした。しかも、半年前に一度断られた後の再チャレンジ。

このまま年越しできるんだろうか?気が重い日々が続く折、ちょうど友人から「資金調達方法の勉強会がある」ということを知り、何か参考になればと思って参加しました。11月15日、インド出張が目前に迫る夜のことでした。

 

その勉強会の講師、「つながりバンク」斎藤氏から学んだのが、

私募債」(しぼさい)という資金調達方法でした。

 

私募債とは、証券会社を通じて広く一般に募集される公募債とは異なり、少数の投資家が直接引受する社債を指します。具体的には、「公募はNG」、「呼びかける人数は最大49名まで」といった縛りがあります。

でも、私募債で資金調達した事例をいくつか聞くと、まさに目から鱗。「これだ!私募債にチャレンジしてみよう」と決心するのに時間はかかりませんでした。私が取り組むのは、営利事業ではありますが、同時に歴史的・文学的価値ある建物の再生、魅力ある観光地・金沢の景観創造という、社会的意義を持った事業であり、だからこそ趣旨に賛同して資金を出してくれる友人が必ず出るはずと思ったからです。

 

インド出張から帰った直後の11月20日、早速、「つながりバンク」を訪ね、私募債の具体的打合せに入りました。事業の目論見書をつくり、社債の利回り(クーポンレート)や特典を決め、募集金額の目標を設定し、呼びかける対象の49名のリストをつくり…急ピッチで進めました。時すでに11月下旬、良い年越しにするためにも、この難局を乗り切らないと。

社債は、一口50万円に設定しました。目標調達金額は、500万円…つまり、49名に呼びかけて、10口集まれば目標達成という計算です。

 

49名に呼びかける前に、私はアナウンス方法を考えました。11月30日、金沢に飛んで、レンタル和服というインパクトある姿で、内装工事中の物件写真を撮ってFBで発信したのです。これが、むちゃくちゃ目立って、249名が「いいね」を押してくれました。

 

東京へ帰る新幹線のなかで、早速、49名のリストへの呼びかけをはじめました。メールやFacebookを使い、一人ひとり文面を変えて、心をこめて、呼びかけました。やりとりに集中するため、呼びかける人数は1日3名程度にしました。

で、ふたを開けてみると…素晴らしい結果でした。

 

開始2週間で、目標額の500万円調達を達成!

12月末までに、700万円を調達!

 

なんと、リストの49名に呼びかけ終わる前に、14名の方が、50万円づつ出資してくれたのです。これには「つながりバンク」さんもびっくり。私募債での資金調達が、ここまで順調にいったケースは、後にも先にも皆無だそうです。

また、出資者に占める「女性比率の高さ」にも驚かれました。私の場合、支援してくれた方の36%が女性なのです。そのひとりが、コラムを書いてくれました「私募債に支えられてオープンした古都の民泊」。彼女がどのような気持ちで私や事業を支えてくれたのかがよく分かりますね。

 

本当に、良き友人に恵まれたことに感謝するとともに、これはまぎれもない「借金」であり、3年後までに元本に利子をつけて返さなければなりません。恩義に報いるためにも、必ずゲストハウス事業を成功させなくてはと、気分を新たにしました。

かくして、2019年の年越しは、とても喜ばしいものになったのです…

 

いま振り返ってみると、銀行には、いくら誠意を持って話しても全く話が通じませんでした。厳しい言い方で申し訳ないが、いまの金融機関には残念ながら、改修した町家を正当に資産評価する仕組みがなく、事業性を評価する能力も気概もないことがよく分かりました。

それで困り果てたことは、無駄にはなりませんでした。おかげさまで、「私募債」というウルトラCな資金調達方法に出会えたのですから。

 

これは、ビジネスモデルの勝利です。「古都の価値ある建物の保存&旅館業ゲストハウスとして再生」、「仲間に支えられて私募債で資金調達」という新しいビジネスモデルは、これから日本で、大きく花開くと思います

近い将来、日本の不動産投資は、「都市再生&高付加価値」がキーワードになると私はみています。

 

都市部でアパート・マンションを新築して、普通に貸して利回り何%みたいな不動産投資は、現状メインストリームではありますが、マクロ的には衰退産業への道を突き進んでいるように思います。人口増えないのに建てすぎる、いくら空室が増えてもスクラップ&ビルドを止められない…その論理的帰結として衰退せざるを得ないでしょう。

また、東京はじめ都市部の地価や建設単価が上がりすぎ、仕入れしたくとも今の値段では食指が動かないですね。私たち投資家は安く仕入れて高く売り抜ける動物ですので…

 

でも視点を変えれば、いまの日本、特に地方は宝の山のように思います。インバウンド観光やリモートワークの普及により、(定住人口が減っても)交流人口の増加が期待できる場所が日本には多いにもかかわらず、安値で放置されている物件が山のようにあるのです。

私が買わせていただいた金沢町家を含め、地方の価値ある物件を安値で仕入れて、地元の人が必ずしも見えていない「交流人口の増加」に照準をあてて、戦略的に再生・プロデュースしていく。歴史や由緒を感じる宿に泊まれる、友達つくって楽しく過ごせる、ビジネス上のヒントや刺激を得られる、街の景観も良くする…といった「価値」を創り出す運営を通じて、普通に賃貸するよりも大きな収入を実現していく。それが次の時代の不動産投資・経営におけるキーワードになると私は思っています。

 

最後に、私は私募債で応援してくれた仲間への感謝は忘れません。彼らが、それぞれの地元で都市再生&環境創造型のプロジェクトをやるなら、微力ながら精一杯応援させていただきます。私たちの力とお金を賢く使って、郷土を、日本を、少しづつ良くしていきたいですから。

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