大みそかになりました。
オーストラリア(ケアンズ)滞在も、残すところあと1日。元旦のフライトで、日本へ帰国しますので、年越し気分なんて、全然ないですよねえ。
ここは紅白も大掃除も、門松もないし、それに、真夏の気温だし・・
ところで、いま日本では、増税論議が盛り上がっていることでしょう。
もちろん賛否両論あるでしょうが、客観的情勢を考えると、増税は不可避だと考えます。
今後も日本に住み続けるのであれば、国民としては、消費税10%、15%の時代にも対応できる、財務体力をつけるのが急務だと思います。
ここオーストラリアも、消費税は10%です。シドニー・オリンピックを開催した、西暦2000年に、消費税を導入し、一気に、税率を10%にしました。
それは、私がこの国に移住したばかりの頃で、導入当時の状況を、今でも、よく覚えています。
当時のオーストラリアは景気が良く、大幅な所得税減税とセットで、消費税導入を一気に実現したのです。
景気良かった分、目立った反対・混乱はなく、比較的スムーズな導入だったといえます。
導入以降、10年余り経ちましたが、この間、オーストラリア経済は、おおむね順調に推移し、消費税も、10%からさらに上げられることは、当面ないと思われます。
余談ですが、2000年(消費税導入)からの10年間で、オーストラリアの人口は、15%も増えています。
好景気が長く続いた最大の要因として、順調な人口増加と、内需の拡大があったことは、衆目の一致するところです。やはり、移民受け入れで人口増加をはかれる国は強い!
一方、同時期の日本の人口はというと、全然増えていません。
人口増えないなか、経済成長を目指すのは、逆風のなか、ヨットを操るようなもので、本当に大変です。
逆にいえば、日本は、全然増えない人口と、高齢化も著しいなかで、よく5兆ドル以上の経済を維持しているものです。
人口減で、民間投資・消費が、構造的にふるわないなか、経済規模を維持するには、政府支出が増えていかざるを得ない。
でもって、いつまでも、国債に頼るわけにもいかないから、やはり増税がトレンドでしょうね。日本が移民国に脱皮する国家的決意がない限り、この状況は変わらないでしょう。
増税となれば、誰から、どのような原則で徴収するか・・・それが、議論の焦点になってきます。
そして、どの国、どの時期でも、「富裕層」は、増税のターゲットになりえます。
「あいつら金持ちなんだから・・・奴らから少々、税金取ってももいいだろう?」というのが、洋の東西を問わず、一般大衆の感情というものです。
米国では、オバマ大統領のもと、「富裕税」を導入すべきか否かという議論が、バフェット氏の影響力とともに、盛り上がっていますが、
それも、いわゆる「大衆感情」と軌を一にするものです。また、政治家の立場からしたって、「富裕税を導入して、一般大衆向けの増税を阻止しました!」といえば、票がとれますよね。
しかし、ここに「徴税技術の壁」という、難問が立ちふさがります。
一般大衆の大多数は、給与収入だけで生活していますから、徴税はものすごくカンタン。給与天引きすれば、徴税効率は100%近い。
一方、富裕層は、給与収入よりも、事業収入や投資収入を主な収入源としています。しかも投資だけとっても、国内外の株式投資、現物投資、デリバティブ投資、不動産投資など、非常に多岐にわたるし、また、個人で収入を得るよりも、「法人」や「トラスト」の枠組みで収入を得るケースが多いですから、
富裕層から徴税する仕組みは、一般大衆向けより、格段に難しい。
不動産課税ひとつとっても、常に変動する土地・建物の現在価値を、いかなる基準で評価するか?減価償却は何年にする?接道条件や土地の形状による違いをどう扱うか等々・・高度なスキルが必要となるし、
あと、先物資産の現在価値をどう評価するか?遺産の相続と生前贈与を、遺言のある・なしによって、どのような基準で扱うか?法人と個人の所得をどう区分けして、どんな場合に「見なして」課税するか?海外の資産からの所得を、どう課税するか等々、どの国にとっても、決して簡単なことではありません。
なおかつ、課税スキームを構想できたところで、足元の経済情勢のもとで実施できるかどうかは、また別の問題です。富裕層の投資であればあるほど、国の経済成長と密接にリンクした分野と重なることがほとんど。
例えば、贈与税の特例を廃止して、富裕層に対して増税することはできますが、それは、新規の住宅需要や、高齢者から若者への所得移転を犠牲にすることになるので、経済成長促進の観点から、増税は難しいわけですね。
面白いのは、洋の東西を問わず、一般大衆や、それを拠り所にする政治家ほど、「国が富裕層の所得を、完全に捕捉・徴税できる」と、思いこんでいることです。
自分が、給与所得・天引きの世界でしか生きていないので、富裕層が、どれだけバラエティ豊かな方式で収入を得ているか、それに対して、国が徴税するのがどれだけ難しいか、理解できないのですね。
例・・・「富裕層から税金を取れ!~子どもたちを貧困から守るために」、この著者は、富裕層課税を、すごく簡単だと考えているようですね。
技術的に難しいとはいえ、富裕層向けの課税スキームは、今や世界主要国の多くの政府にとって、喫緊の検討課題となりつつあります。
その背景には、各国政府の財源が足りない他に、あまりに貧富格差が開きすぎて、社会の調和が保てない・・・という事情があるのでしょうね。
日本の富裕層の間でも、日本政府に嫌気がさして、資産を海外に移転したのはいいが、今度は移転先でも所得を捕捉され、課税された・・・みたいな話を時々聞きますが、
これは、日本だけでなく、資金逃避先の政府も、富裕層向けの徴税準備を軒並み強化していることが、背景にあるわけですね。
海外において、日本人富裕層は、英語や現地語ができなければ、圧倒的な情報弱者ですから、海外の政府当局が「資産を守ってくれる」とは、夢にも思わないことです。
日本の居住者が、海外に資産逃避して意味があるのは、相手国が国策として、資産移転を奨励しているタイミングか、あるいは、「システムがしっかりしてない新興国や途上国」で、「その国の支配層とガッチリ握れている」時くらいかな。
あるいは、「アジア太平洋大家の会」に入って、主に不動産を通じて、各国経済事情を学び、積極的にリスクを取るマインドセットを身につける・・・しかないでしょうね。
最後に、「富裕税」の行方について・・・
富裕層に課税したければ、資産に対する課税や、株式取引に対する課税が王道でしょうが、世界中を見渡して、私は日本ほど、この面で所得の捕捉・徴税システムが発達した国は、他にいくつもないと感じています。
たとえばの話、不動産を投資目的買ったら、不動産取得税がすぐかかるし、固定資産税、都市計画税は毎年徴収されるし、譲渡所得が出たら分離課税されるし、路線価の仕組みも完備されていて、相続税、贈与税もバッチリ取られる・・・。
路線価の仕組みがなかったり、相続税が存在しない国は、先進国でも結構あるわけだから、何だかんだ言って、日本の税制、うまくできてますよね。
すでに、ネタはほぼ揃っているので、多くの場合、優遇措置を緩めるだけで、(政策的にはともかく)技術的には、富裕層増税はできてしまいます。例えば、
1.相続・贈与関連だと・・・配偶者、未成年者控除の廃止・縮小
2.株式関連だと・・・上場株式等の売却益・売却損や配当所得に関する優遇措置の廃止・縮小
3.高額所得高齢者に対する年金カット、所得税アップ
あと、よりドラスティックな方策として、資産を全て棚卸しして、「純資産ー純負債」の何%を毎年徴収するという、包括的な富裕税も、可能性として考えられるでしょうが、ここまでやるには、タックスヘブンを含めて、世界中の政府が、足並み揃えないと難しいでしょうね。
いずれにせよ、明日から始まる2012年、それ以降の数年は、富裕層に対する課税が、世界レベルで強化されるトレンドであるのは、間違いないところだと思います。
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