これから数回にわたって、関東を中心に各都道府県にフォーカスして、それぞれの県が抱えるほぼ解決不可能な社会問題にフォーカスして語っていきます。今回の主役は茨城県です。
茨城ってイメージ地味です、 話題に上がることが少ないというか…たとえば同じ北関東の草津温泉や日光、那須みたいな著名観光地が茨城には見当たらないし、お土産も横浜のシュウマイとか那須の御用邸チーズケーキみたいな派手なのが無い。
そんな茨城が脚光を浴びるのは都道府県魅力度ランキングで全国最下位になった時くらい。これぶっちゃけ観光地ランキングなんですが、全国最下位の常連です。茨城って必ずしも観光に力を入れなくても経済運営やっていける県なんです。裕福なんです、特に困ってないんです。
工業団地の誘致では件数、面積とも日本一ですし、農業生産額だって北海道の次、鹿児島や千葉と全国2位争いをやってますし、道路総延長も北海道に次いで全国2位。大手の製造業が多いおかげで県民所得も全国上位なんです。日本一広い関東平野にあって平地が広く平均住宅地面積は北海道を抜いて日本一。
私が不動産仲介の仕事で茨城の県庁所在地・水戸市あたりの古家とかみると土地80坪、敷地内駐車場2台にちょっとした畑もつくれて、2階建の戸建の場合1階2階もトイレがある、国産木材もふんだんに使うみたいな贅沢な住まい方をしてる方が少なくないです。
あとメロンとかネギとかレンコンとかつくってる農家が大豪邸建てて外車乗って、子供には銀座の店でハイブランド買ってあげるみたいなリッチな農家も時々あります。全国的にみれば相当豊かな茨城、もちろん生活に困ってる方は一定数いるし、北部の山間地とか西部の純農村は過疎に悩んだりしてますが、概して生活水準が高いし仕事には困らない、東京にも出やすいということで、わざわざ外に向けて頑張ってアピールしなくてもいいみたいな感覚はありますね。
そんな茨城県でショッキングなニュースがありました。昨年10月の国勢調査の結果がまとまりまして、県庁所在地・水戸市の人口を、県南部の新興都市つくば市が追い抜きました。これで茨城県は隣の福島県や、群馬県、三重県、山口県などと同じく、県庁所在地が県内人口最大都市から転落してしまった県の一つになりました。この一件は、茨城県の抱える南北問題を端的に象徴してます。
茨城県庁的にいえば、水戸vsつくばの争いは県央と県南の争い、言い換えると茨城県のなかで東京通勤圏として発展著しい県南と、東京から遠い地方都市として人口が減りつつある県央および県北の地域対立や格差の問題であるわけですが、県央、県南といっても茨城県以外の人にはわかりにくいので、ここではわかりやすく「水戸vsちばらぎ 」の地域格差問題と呼びます。
そこにはいばらき県の語尾をきと清音で読むか、ぎと濁音で読むかという、茨城県の国論を二分するテーマがかかわってきます。茨城県内ではいばらきと、清音で呼ばなければなりません。水戸の県庁も「 いばらぎじぇねんだど、いばらきだかんな 」 と、きを強調する、日本中どこにいても「いばらき」で通すのが茨城県民のエチケットなのですが、全国的にはいばらぎと、濁音で読んでしまう人が多いです。同じ関東の東京都民でさえも いばらぎとかいばらきなんて、どうでもいいと思ってる人が多い。
でもって茨城県南部の千葉県と接する地域は濁音で「ちばらぎ」と呼ばれています。そこの住民は茨城県民なのに千葉県とやたら仲が良い、親和性が高い、千葉県側に行きまくってる、千葉県内の商業施設や病院を使い倒していることで結局二つの県が一緒くたにされて「ちばらぎ」と呼ばれています。
この「ちばらぎ 」 地域はJR常磐線や、いま人口が増えまくってるつくばエクスプレス沿線なら余裕で東京通勤ができてしまいます。ガチで首都圏ベッドタウン。すでに地元民は少なく関東近県から転居してくる人が大部分を占めますので、いばらぎと濁音で読んでしまう人が多いんです。それに方言も、もともとの茨城弁が薄れて標準語がどんどん浸透してきています。同じ東京ベッドタウンである千葉県側と変わらなくなってます。
ところで、県庁所在地・水戸を中心とする地域は昔からまとまりが良いです。水戸藩の領地だったので文化的一体感があります。水戸市、ひたちなか市、日立市など工業都市が連なり、エリア人口は60万人程度いますが減少傾向。水戸市周辺は比較的健闘していますが、日立市より北とか山沿いの地域は急速な人口減少が進んでいます。一言でいえば全国のどこにでもある普通の地方都市で、同じ北関東や東北の地方中核都市と共通の悩みを抱えています。
水戸エリアの人口減少を横目に、茨城県内で唯一、人口を増やしまくっているのが県南ちばらぎエリアです。首都圏ベッドタウンとして日本屈指の人口増加を見せており、エリア人口は100万人を超え、県庁所在地の水戸周辺を完全に追い抜きました。年々、差は広がるばかりです。
この「ちばらぎ」エリアの文化的特徴は、東京の方ばかり向いて、水戸を完全に無視する。特に取手とか守谷、牛久竜ケ崎あたりだと水戸よりも東京の方がずっと近いので、たまに免許の手続や試験とかで水戸に行かなきゃならない時は思い切り文句が出ます。
さらに歴史文化的には千葉県寄り。茨城県民なのに千葉LOVEが半端ない。ここはもともと水戸藩の領地ではありませんでした、今は利根川が茨城と千葉の県境になっていますが、江戸時代以前の流路は全く別でした。同じ下総の国として、ほぼ同じ方言と生活文化を共有していた地域です。
たとえば茨城県取手と千葉県柏の文化なんてぶっちゃけ何も変わりません。県は違っても取手から常磐線10分乗れば柏です。飲み会や買い物で皆さん日常的に柏に来てますから別々の県なんて意識も無いです。取手には柏レイソルのサポーターが多く、水戸ホーリーホックを応援する人は少ないです。
話をもとに戻しますね。茨城県の抱える南北問題の何が深刻かというと、
・県庁所在地の水戸周辺は文化的なまとまりはあるけれど、
・水戸の影響力が及ぶ地域は茨城県の半分も無い。そして人口のシェアがどんどん落ち、影が薄くなっている
・逆に勢いを伸ばしているのが県南部の「ちばらぎ」だけど、この地域の人は東京・千葉ばかり向いて水戸の方を全然向いてくれない。
これは水戸視点でいうと深刻な問題なんです。県庁のある水戸が、茨城県でまとまろう、オール茨城で頑張ろうと、いばらぎけんじゃなくていばらき県だよいっても、通用するのは水戸周辺だけで、県南部ちばらぎエリア人が全然あさっての方向を向いて言うこときかないんです。彼らはいばらぎ県と平気で濁音使ったりするんです。しかも、県内で人口増えるのはちばらぎエリアばっかりで、水戸は影が薄くなるばかり。東京への時間距離で繁栄度が決まるから解決は不可能なんです。
最後に、水戸の人にとって、つくばエクスプレスの存在は複雑な心境でしょうね。この沿線は全国屈指の人口増加をしています。都市開発や商業開発は目覚ましく、まさに明日の茨城を支える鉄道幹線なんです。ある意味誇らしいですが、この線路が致命的なのはつくば駅どまりで、水戸に通じていないんです。つくば市や守谷市、つくばみらい市の人口が増えても、その果実は東京に持っていかれてしまう、せめてJR常磐線の土浦駅まで延伸させて、水戸とも通じている茨城の鉄道ネットワークに組み込んでいきたいというのが、水戸および茨城県庁の意思なんですね。