情報テクノロジーと不動産の本質

こんにちは、国際不動産エージェント鈴木です。いつもご愛読ありがとうございます。

私はいま北米5都市をまわる9泊10日の出張中。移動の多いハードな旅もそろそろ折り返し点といったところ。今はカナダのトロントに居ます。

数日前は、ラスベガスで国際不動産業者ネットワーク組織LeadingREのワークショップに參加しました。アメリカをはじめ世界各地の不動産業者と知り合い、業界の最新トレンドを知るために、私はこういう機会があれば世界中どこでも出かけていきます。

いま英米圏の不動産ビジネスの現場はRealestate tech(不動産テック)を抜きに語れなくなりました。Zillow, Redfin, Trulia、Zoopla、ImmobilienScoutなど物件情報ポータル&データバンク、誰もがスマホで買付入れられるOpendoorなどe-buyingシステム、Compassなどバーチャル不動産エージェント、電子署名を普及させたDocusign、仲介手数料の価格破壊旋風を巻き起こしたPurpleBricksに象徴される、情報テクノロジーを使って新たなサービスを展開する企業が台風の目となり企業価値を大いに上げる一方で、既存の不動産仲介業者は平均値をとれば厳しい競争のなか収益が伸び悩んでいます。

LeadingREのワークショップも、そういう時代背景を反映して、講義の約半数が不動産テック関連の内容でした。ここは全米、全世界の不動産業経営者が一堂に会する場、彼らに新しいサービスを使ってもらうため、テック系の企業が大金を出してイベントスポンサーになり、大勢の講師を派遣して来るのです。さすがはビジネスモデルの再先進地アメリカ。この国ではもはや不動産とITの垣根が無くなりつつあると実感しました。

 

不動産以外のビジネスでは、たとえばUberがタクシー業を脅かしたり(アメリカではタクシーが完全に死滅した州もある!)、Airbnbがホテル業界を激変させたり、Netflixがレンタルビデオ業を駆逐したり、Amazonが既存のショッピングセンターやリアル書店を不要にしたりと、情報テクノロジーとスマホの普及が産業構造そのものを一変してしまう事例に事欠かない昨今ですが、

不動産という業界は特殊なのか、これだけ不動産テックが盛んなアメリカでさえ、仲介手数料収入やエージェント数のマーケットシェアでいえば、テック系企業は数パーセントを占めるに過ぎません。今後もたぶん10%を超えることはないだろうという講師の言葉がとても印象的でした。

また、テック系を標榜するOpendoor、Purplebricks、Compassなどでさえ、全社員に占めるITエンジニアの数はせいぜい8~10%にとどまります。つまり、アメリカでも、どこの国でも、ほとんどの客はエージェントという「人間」を通じて不動産取引を行っているのです。

 

なぜ、機械やAIを通じて不動産を買う流れにならないのか?その理由は明快で、

UberやNetflix、Airbnbのような、「高頻度&低額な取引」なら、失敗しても数千円の損失で済むから、スマホ片手に電子でやるのが合理的であるのに対し、

不動産売買はその対局というべき、「低頻度&高額な取引」であり、一般人に取引の経験値がない上に、失敗した時のリスクが何百万~何千万円になる。そんな重大な決断を機械に委ねる人はやっぱり少なくて、結局ほとんどの人は信頼できるエージェントから買うのです。

 

私思うに、これこそ不動産ビジネスの本質であり、今後さらにテックが発達しても、「不動産は人から情報を得て、人を通じて買う」という基本は将来も変わらないでしょう。つまり不動産業においては、「エージェントを情報機器やアプリに習熟させて生産性を上げるのが定石で、販売の仕事を機械に置き替えようとするのは悪手」なのです。

今の時代を生きる不動産業者としては、情報テクノロジーの成果を、業務効率や販売戦略に存分に使いつつも、お客様に信頼されること、不動産を通じて長期間パートナーとして共に歩むことは、社是としていつまでも大事にしていきたいと思います。

時代や洋の東西を問わず、不動産は「人を信じて買う」ものなのだから…

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