拝啓 函館在住の皆様、函館を愛する旅人の皆様へ
こんにちは。私は東京在住で、世界中を舞台に不動産投資に関わる仕事をする者です。自身も15年以上前から、個人投資家として、日本のほかオーストラリアやアメリカ、東南アジアを中心に不動産投資を続けてきました。とにかく三度のメシより不動産が大好きで、この命が尽きる瞬間まで、間違いなく、不動産に関わって生きていくと思います。
私のライフワークである不動産が、他の金融商品と大きく違うのは、1)利用価値を持った実物(モノ)であること、2)「住まう」「働く」「商売する」といった人間の暮らしの根幹をなすこと、3)寿命が長く、メンテナンスを続ければ人間の寿命よりも長持ちすること…それゆえ、不動産の世界で成功するためには、「長期的な視野」と「地域の人間生活に対する深い洞察」が欠かせません。
私が不動産投資・ビジネスにおいて他の何よりも重視するのは、「あるべき場所に、あるべき建物があって、後世まで引き継がれていく」ことです。いま日本は全体として家余りで人口も減っていますが、利用価値のある土地や街に、よく調和した良質な建物があって、適切にメンテされていれば、将来にわたって価値が保たれていくはずです。私はそういう価値ある物件のオーナーになったり、発掘・企画することに生き甲斐を見出しています。
今回(2018年10月24日)、縁あって訪れた函館の西部地区は、まさに、「街とは何か?」「価値ある物件とは何か?」を、考えさせられた場所です。
1)魅力的な都市日本一なのに、激しい過疎化
「地域ブランド調査」で、函館市の快進撃が続いています。2014、15、16年と「京都」をしのぎ、3年連続日本一に輝いています。特に「観光意欲度」、「地元の食材が豊富」、「食事がおいしい」という項目で全国1位。全国屈指の好印象を持たれている都市といって間違いないでしょう。
そこまで魅力的な都市だと思われているにもかかわらず、函館市では全国屈指の激しい人口流出・減少が続いています。1940年以前は、北海道で一番人口の多い都市だったのに、札幌に抜かれ、旭川に抜かれ、今は総人口26万人しかおらず、しかも毎年3千人減り続けています。日本有数の好感度を持つ観光都市なのに、全市が過疎地域に認定されているのは何という皮肉でしょう?
2)函館市で一番魅力的な観光地に、市民が住まない
函館市の主要産業は、以前は「漁業」でしたが、今は「観光」です。アジア近隣諸国からインバウンド観光の後押しもあり、JR函館駅周辺エリアでは大資本が入りホテル建設ラッシュの様相。マンションも含めて高層建物が並び、駅前は朝市周辺を除けば平凡な地方都市的景観になっています。
他方、函館らしい景観と、魅力的な観光地が多いのは、函館山の麓に広がる「西部地区」。坂の向こうに青く輝く海、緑の函館山をバックに、おしゃれなお店が並び、カトリック元町教会、ハリストス正教会、イギリス領事館など洋館群が並ぶ観光地になっており、「女子旅」を中心に観光客でにぎわっています。この辺は19世紀から栄えた旧市街なので、市電はじめインフラも完備されています。
しかし、今日の函館市民の大多数は西部地区に住みません。住まいという意味での函館市の中心は、西部地区→函館駅周辺→五稜郭周辺→産業道路周辺(美原地区)と、時代とともに北上を続けています。クルマ・道路の便が良く近代的に整い、函館市民のマイホーム取得の中心地である美原地区は、日本のどこにでもある郊外ロードサイドの風景が広がりますが、そこから最南端の西部地区は距離的に一番遠く、冬季だとクルマで一時間かかってしまうこともあります。
つまり、今日の函館は、主要産業の稼ぎ頭である「観光地」と、市民の生活の場が完全に分離した都市になっているのです。
私が訪れた時も、「元町」エリアの観光動線上にあり、観光客相手の民泊立地としては申し分ない戸建住宅(3棟長屋のうちの1戸)を内見しました。この物件は相続で売りに出されましたが、地元実需がまるでなく2年間も売れませんでした。人が住まない間、寒波で水道管が凍ったりして、メンテナンスコストがかかることも一因ですが、放置されるのは余りにも勿体ない。
山側のお部屋からは、函館山ビューが…
海側のお部屋からは、(ちょっとだけ)函館港のオーシャンビューが
長屋なのでお隣と共有壁ですが、その真ん中に雪落としスペースがあり、ここは中庭としていい感じの景色
外観はこんな感じで
玄関先には、石畳の道。
この石畳の道の斜向かいが「旧相馬邸」、その先がすぐ「元町公園」の洋館群が並ぶ一角。観光立地としては申し分ないですが、こういう家が売れずに放置されるのが、いまの函館の現状です。
元町から10分足らず歩いた距離の弁天町には、これまた、後世に残したい「明治創業の酒屋」、「鉄骨の建物に蔵2つが入っている」魅力的な建物があり、こちらも売りに出ています。長年、酒と味噌に関わる事業を営んだ商家ならではの、ホーロー引きのレトロな看板やイラストの数々。倉庫レストラン兼宿泊施設(オーベルジュ)みたいな活用法で再生できないものかなあ?
3)函館民泊運営はブルーオーシャン
いま函館は近隣アジアからのインバウンド観光が盛り上がっています。平日の元町界隈を歩いても、市電に乗っても、中国語や広東語が当たり前に聞こえてきました。皆さん、日本人と同じような少人数の女子旅で来てました。
彼らの宿泊先として、函館駅界隈でホテル建設が進んでいますが、函館の雰囲気が感じられる主要観光地から2~3㎞離れています。元町界隈の良い感じのエリアに泊まりたい需要は必ずあるはずですが、現時点では民泊が数えるほどしか登録されていません。日本各地の観光地と比べても驚くべきライバルの少なさです。
その理由は、現時点で函館現地に住み、民家型の宿泊施設運営を事業としてやっている方がほぼ居ない、という、運営側の事情につきます。なぜなら、「運営体制さえ整えば函館元町の古民家どんどん買いたい」という都会の投資家も、「函館地元で売れない中古住宅を買ってくれる方が居ればすぐにも売りたい」という地元オーナーも、いくらでもいるからです。
言葉を換えれば、「いま函館で民家型の宿泊施設運営に事業として参入すれば、ライバル居ないなかで商売を伸ばせる」まさにブルーオーシャンといえます。
またこれは、函館旧市街地で長年の風雪に耐えて、いまオーナーが居なくなり取り壊しの運命にある住宅を結果的に救い、函館の個性ある都市景観を守ることにも直結します。そういう街興しの社会的意義ある仕事が、地元に居ながらできるのです。
もし、「是非やってみたい」、「できるかどうか分からないが、興味あるので調べてみたい」という地元在住の方、或いは函館と関わる仕事をしてみたい方は、是非、私までご一報いただけると幸いです。私、函館に地縁血縁もない余所者ではありますが、この街の個性ある都市景観を守り、観光業を持続的に発展させる上で、自ら函館の民家オーナーになって再生資金を出したり、或いは志を同じくする東京の投資家を連れてきたり、といった貢献はできますので。