日本へUターン起業のすすめ(3)

(この物語はフィクションです)

201X年10月…

オーストラリアからの帰国移住で、日本(東京)での生活をスタートしたAさん一家。今日は、近所の公立小学校に通う、2年生の娘が通知表をもらってくる日です。

昔は「通信簿」という呼び名でしたが、今では「あゆみ」と呼ぶそうです。日本の学校、以前と同じ3学期制ですが、「あゆみ」が送られてくるのは、前期と後期の、年2回。10月は二学期真っ最中なのに、このタイミングで前期が終わって通知表が来るのは、不思議な感じがします。

 

オーストラリアで生まれた娘が、日本の学校になじめるのかどうかが、Aさんと奥様の最大の心配事でした。幸い今のところ、学校には毎日行けてますし、日本語で先生や友達とちゃんと話せているようですが、いろんな面で、やりにくさを感じているようでもあります。

というか、日本の学校に違和感を感じているのは、子供というよりむしろ両親なのかもしれません。特に納得いかないのが、「宿題」。

 

・宿題が、やたら多い。

・子供に大量の宿題やらせるのは、親の役割だという、暗黙の期待がある。

・それなのに、親にどうやって宿題をやらせるかという、インストラクションが一切ない。

 

娘はオーストラリアの公立小学校に、PrepとGrade-1、まる2年通いましたが、そこでは普段、宿題など出ないし、教科書類も学校に置きっぱなしでした。たまに宿題が出ることもありましたが、その際は両親に対して、宿題のポイントや指導法を、素人にも分かるよう詳しく説明してくれたものです。

一方、日本の小学校ではオーストラリアとは比較にならない量の宿題が出る、小2の子供が自発的に宿題やるわけないから、結局親が子供をなだめすかせて、時には叱りながらやらせなきゃならないが、やってみると実に大変なんです。こちとら、日本の教育受けてきたとはいえ、教えるプロじゃないんだし、日常生活で忙しいんだから、もっと学校にサポートして欲しいと思いました。

それよりも、子供に勉強教えるという、本来学校がやるべき仕事を、なぜ教師でもない親がやらなきゃいけないのか、人さまの時間を何だと思っているのか…そんな違和感がありました。

 

夏休みになると、「計算ドリル」「漢字ドリル」「一行日記」「読書感想文」「自由研究」など、宿題がどっさり出てきます。

娘は慣れない日本の学校生活でストレス溜まっているだろうと思い、慣れ親しんだオーストラリアで3週間ほど、過ごしました。サラリーマンであまり休めないAさんは1週間ほど一緒に滞在、その後は妻に託しました。

 

オーストラリアで生まれた娘は、のんびり屋なのか、あまり宿題をやる感じでもなく、夏休みは普通に遊ぶものだと気楽に考えているようです。そんななかで私や妻が一番苦労したのが、「一行日記」を毎日書かせること。漢字の難しさはもちろん、普段使っている英語の地名Collingwoodなどを、どうやってカタカナで書くべきか(コリンウッド?コリングウッド?)、娘は分からないし、親もどうやって教えていいのか分からない。担任の先生も日本以外住んだことないから、適切なアドバイスもできない。

それでも、Aさん一家は両親とも日本で教育を受けてきてある程度感覚値もあるので、まだしも対応可能ですが、娘のクラスには両親あるいは母親が外国生まれである児童も数名いるので、学校のサポート体制もろくに無いなかで一体どうやって宿題やらせているのか、いつも不思議に思います。

(注.作者の私は、日本育ちの父親ですが、妻が外国生まれで日本語不自由な状態で、子供を日本の学校に途中編入させましたので、Aさん一家より数倍は大変な思いをしております…)

 

あと日本の学校で戸惑ったのは、紙の配布物がむちゃくちゃ多いこと。学校からクラスから、PTAから教育委員会から、日々、膨大な量の配布物が配られてきて、とてもじゃないが、全部目を通す時間がない。そもそも、何が大事で、何をスルーして良いのか、その判断を自分でして良いかも分からないので、戸惑いました。

大量の紙の管理は大変なので、メールとかLINE、グループウェアなどを通知にもっと使って欲しいと思いました(LINEは親の間で広く使われているようですが…)。

 

昔と違って、いまは日本の普通の公立小学校でも、低学年から英語の授業があります。ALTのネイティブ教師が来て、週1回の授業。日本の子供相手なので大したレベルのことはできませんが、娘は英語できるので、先生からも同級生からも重宝されます。英語の時間だけは、ちょっとしたスターになれる感じです。

とはいえ日本の学校では、娘が英語を流暢に話すことが、必ずしも、ポジティブにみなされるとは限らないことも学びました。むしろ、英語能力より、日本語学習の遅れの方を懸念する教育関係者もいます。先生によっては、「とりえあず英語をやらず、今は日本語に専念した方が良い」と、見当はずれなアドバイスをする人もいます。少なくともAさん一家は、全員が日英バイリンガルであるわけで、日本語しか知らない先生に、バイリンガルを捨てるようなアドバイスをされるのは心外だと、Aさんはまじで噛みついたことがあります。

 

そんな感じで、日本の学校環境、違和感は少なからずありますが、素晴らしいと思う面もあります。特に、給食。あんなに美味しくて、栄養バランスのとれた食事を、安価で提供するシステムが素晴らしい。少なくとも、オーストラリアの学校にあるタックショップよりずっとヘルシーだし、日本の児童の肥満問題がずっと少ないのは、給食のおかげかと思うこともあります。

また、日本の学校は、オーストラリアに比べて、小グループ活動がずっと多い。4~5人くらいのグループで、自主的に課題に取り組んだり、協力したり、学習が遅れた友達を助けたり…向き不向きはありますが、娘が日本語まだ不自由だったころ、小グループの仲間にずいぶん助けてもらって有難かったです。

あと、朝の掃除を子供たちがやったり、美化委員会等があって、周りの環境を清潔に、整理整頓された状態に保つ教育も、日本ならではですね。オーストラリアも学ぶべき点だと思います。

 

Aさん一家が日本に再移住して、1年、2年…と、時が過ぎていきます。弟もお姉ちゃんと同じ小学校に入学して、彼なりに日々、頑張っています。そんな一家に、ある日突然、転機が訪れることになりました。

 

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